[セミナーレポート]幼児教育現場におけるICTの活用について -園がICT化するまでの試行錯誤-

セミナーレポート

 2022年4月25日開催のセミナー「幼児教育現場におけるICTの活用について -園がICT化するまでの試行錯誤- 」のセミナーレポートです。

セミナー開催背景

 企業や行政で進むICT化の波に乗りそこねている印象の強い幼児教育業界ですが、2020年から感染が拡大した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をきっかけに、全国の多くの幼稚園・保育園・認定こども園では端末整備が進み、Wi-Fiやクラウドサービスを活用できる環境が整いつつあります。業務効率化のICT化だけではなく、教育活動のICT化に興味関心のある先生方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
2022年4月25日(月)に開催された本セミナーでは、学校法人七松学園 認定こども園 七松幼稚園の亀山 秀郎(かめやま ひでお)理事長をゲスト講師に迎え、コロナ禍より実践されているICTを活用したポートフォリオの作成、タブレットやカメラ・プロジェクターを活用した園児との教育活動、YouTubeを活用した家庭向けの保育動画配信、ビデオ会議システムZoomを活用したオンライン保育など、全教職員でICT化に奮闘してきた具体的なエピソードを語っていただきました。

セミナー詳細情報

・タイトル:幼児教育現場におけるICTの活用について -園がICT化するまでの試行錯誤-
・開催日時:2022年4月25日(月)15時00分~16時30分
・開催方法 :Web開催(Zoom)
・参加費用:無料
・参加者数:69名
・主催:リンクエイジ株式会社、VISH株式会社

プログラム

1.オープニング 
2.『園がICT化するまでの試行錯誤』
 亀山 秀郎(学校法人七松学園 認定こども園 七松幼稚園 理事長・園長)
3.ディスカッション
 亀山 秀郎(学校法人七松学園 認定こども園 七松幼稚園 理事長・園長)
 藤田  俊(リンクエイジ株式会社 代表取締役)
 西尾 真吾(VISH株式会社 バスキャッチ担当)

登壇者プロフィール

亀山 秀郎(学校法人七松学園 認定こども園 七松幼稚園 理事長・園長)
兵庫教育大学大学院博士課程を修了(学校教育学・博士)、幼児教育の実践・研究を今でもなお継続。園の園長でもありながら、日本幼少児健康教育学会監事、ひょうご乳幼児教育・保育マイスターや、ふるさと兵庫こども環境体験推進委員会の委員などを務めているほか、兵庫県立南但馬自然学校調査・研究委員会委員、尼崎市幼保小連携推進委員会委員も兼任。令和2年・3年には、文部科学省の委託調査研究を受けて、幼児の体験を豊かにするICTの取り組みを行っている。また、『保育所・幼稚園・幼保連携型認定こども園実習 (MINERVAはじめて学ぶ保育)』というミネルヴァ書房から2018年に出版された書籍では、編集者として携わる。


藤田 俊(リンクエイジ株式会社 代表取締役)
大学卒業後、株式会社ベネッセコーポレーションに入社。学生・保護者・教員への講演・セミナー活動を実施。より相手に伝えるために写真活動を開始。生活習慣・学力における調査などから幼児教育・保育の重要性を肌で感じる。2008年 リンクエイジ株式会社を、現会長 吉奥 祐介とともに設立。「子どもの育ちを伝える」をテーマに、取締役兼フォトグラファーとして活動。2016年 同社代表取締役に就任。2017年 各種研究会や学会に参加し、子ども理解、保育理解を深めつつ、教育・保育現場専門のフォトグラファーとして活動。現在に至る。


西尾 真吾(VISH株式会社 バスキャッチ担当)
1982年愛知県名古屋市生まれ。大学卒業後、印刷・デザイン会社に入社。2010年にVISH株式会社に転職し、幼稚園向けクラウドサービス「園支援システム+バスキャッチ」サービス立ち上げから現在まで10年以上企画・営業・マーケティングを担当。全国各地の幼稚園・保育園・こども園を訪問し「日本一幼稚園を訪問した営業マン」とも言われている。幼稚園団体を含め、数多くの登壇実績を持つ。座右の銘は「仕事が仕事を呼ぶ仕事をしよう」

1.オープニング

 ご参加いただいている皆様は、Wi-Fi環境や端末の整備、園児管理のシステムや写真管理のシステムの導入など、様々なICTを取り入れながら、教育活動や保護者への見える化を実施しているのではないでしょうか?
 また取り組む中で、活用方法を模索中という方もいらっしゃると思います。一言でICTと言っても、各園のスタイルもありますから、正解は一つではないと思います。
 本セミナーでは、先陣を切って取り組んでこられた亀山先生にお話しいただき、その取り組みを一つの手法として、皆さんと共有できればと考えております。

2.『園がICT化するまでの試行錯誤』 亀山 秀郎(学校法人七松学園 認定こども園 七松幼稚園 理事長・園長)

 幼児教育現場におけるICTの活用について、園がICT化するまでの試行錯誤を、当園で難しかった点も含めてお話をいたします。
話す内容は次の3つです。


1.本園の概要
2.ICTの活用による業務効率化に向けた試行錯誤
3.ICTの活用による保育充実化に向けた試行錯誤

1.本園の概要

学校法人七松学園
法人規模:教職員約95名
法人理念:出会いに感謝して、笑顔で「和」を広げる

◎認定子ども園七松幼稚園:園児350名
◎職員用の企業主導型保育事業所 ななつまつナーサリー:12名
◎小規模保育事業所
・武庫まつのみ保育園:12名
・塚口まつのみ保育園:12名
・南塚口まつのみ保育園:12名

[受賞歴] 
コロナ禍において様々な実践をしている中で、複数の受賞があります。
2020年・2021年:ソニー幼児教育支援プログラム優良園 受賞
2021年:読売教育賞 優秀賞 受賞
2021年:学習デジタル教材コンクール 学情研賞 受賞
2020年:ICT夢コンテスト優良賞 受賞
・場所:兵庫県南東部の兵庫県尼崎市。大阪の隣で、人口45万人ほどの中核都市です。県の指定医療機関とは1.5Kmほどの距離にあります。

■大切にしているのは直接体験

 ICTを使っていますが、園で大切にしているのは直接体験です。触る・匂いを嗅ぐ・味わう・視る・聴く、です。特に触る・匂いを嗅ぐ・味わうは、赤ちゃんの頃から体験しています。一方、ICTを使って視ること・聴くことについては、私がこの画面から消えたら「誰がいたかな?」って多分すぐ忘れてしまうぐらい、短時間の記憶でしか残らない直接体験です。
 五感を大切にしていますので、田植えをしたり、鶏を飼ったり、玉ねぎの皮をむいて玉ねぎの匂いを嗅いだりして、体験したことを子どもたちが人に発表するという体験も含めて取り組んでいます。

2.ICTの活用による業務効率化に向けた試行錯誤 ~七松幼稚園のICT活用の歩み~
■他園の実践からGoogle for Educationを知る

 業務効率化にはICTがいいと、なんとなく聞き始めたのが2019年です。どうやったら導入できるのかと他園の実践を聞いたところ、Googleに基本ソフトがあり、教育用は無料だとわかりました。
 少しずつ調べると、Google for Educationにはスプレッドシートがあって、みんなが作ったファイルを入れられるドライブがクラウドにある。パソコンの中じゃなくてクラウドにファイルを入れると、いろんな人が見に行けることがわかりました。

■最初のつまずき

 使うためには申し込みが必要ですが、そこでまずつまずきました。Google for Educationは当時、英語での申し込みでした。なんとか英語で申し込みを行いましたが、3ヵ月待ちという返事。その間に準備としてChromebookを買いました。ところがChromebookのキーボードはJIS規格でないため、いつも通りタイピングすると全然違うものが出ます。準備のつもりがChromebookが上手く使えない、という壁にもぶち当たりました。

■ドライブに何を入れよう

 便利なドライブに何を入れようか考えました。そして保育計画、指導案、保育日誌、保育だより、ヒヤリハットを入れることにしました。
 冬休みに保育者がわからないながらにも使ってみました。七松幼稚園に合うように、少しスプレッドシートのフォーマットを変えたりもしました。そしてアカウントと権限を振り分けて、修正できる人と閲覧だけの人を指定しました。

■最初は主幹の保育者から

 新たな取り組みは、当園で一気にはやりません。園長と副園長が話をして、これぐらいならいけるかなというところを、まず主幹の保育者に試験的に取り組んでもらいます。
 そして保育記録のデジタル化を2月末に初めてやりました。最初は1~2人の先生でスタート。ここがICT化への階段を上る最初のステップとなりました。
 そして先にお話ししたいくつかの書類へ、そして他の保育者へと展開していきます。

■思ったよりもわかりやすい

 ヒヤリハットの報告書は、メモで書くのではなく、ケガした場所をデジカメで撮って、写真をスプレッドシートに載せて、どういう対応をしたのかを記載しました。思ったよりも、わかりやすいものができました。
 こういうデータがどんどん蓄積されますので、非常勤の先生も含めて共有することができます。そして保育記録、保育計画、保育だより、ヒヤリハット、会議録のデジタル化といったことを、次年度に向けて準備を始めました。

■みんなで使うと問題が発生

 みんなが使い始めるとノートパソコンが足りません。機器の不足です。Wi-Fiの電波を探して、パソコンを持って園内を歩き回る姿も見受けられました。
 また、スプレッドシートに作るフォーマットの中身でも意見が分れます。クラウド上にいろんな情報が集まり始めると、情報の仕分けが必要です。どのフォルダにどのファイルをしまうのか、ルールも必要です。
 そしてアカウントの管理。一人ひとりに付与するのか、クラス単位なのか、パソコンに紐付けてアカウントを付与するのか、ルール決めが必要になります。
 使えば使うほど、情報が集まれば集まるほど、解決しなければならない問題が増えてくるのです。

■保育業務と働くための2つのシステム

 Google for Educationに加え、もう一つサイボウズというシステムを入れました。
サイボウズは学校法人内だけのもので、園長・副園長と非常勤も含む保育者との情報共有用です。割り切っていえば業務連絡、働く人のためのものです。
 Google for Educationは、園内での情報共有に限らず、保護者との情報共有も可能です。こちらは保育業務の電子化で使う道具です。

■お金の問題も出てきた

 いろいろとやってみると、お金のことも出てきました。サイボウズのライセンスは1人あたりが500円。Googleで全部できれば0円なのに、と正直思いました。

■誰が管理者?

 サイボウズに全員のアカウントを登録しました。では、管理者は誰でしょう? スマホにサイボウズのアプリを入れようとしたら上手くできない。じゃあブラウザでいいの? アプリを入れるサポートは誰がする? といった問題が出てきます。
 園によっては、こうした管理ができる人に任せているケースもありますが、当園は業務によって担当を分け、事務の協力のもと進めてきました。

■誰が管理者?(2)

 だんだんと業務の効率化が進みました。そこには「園支援システム+バスキャッチ」と「れんらくアプリ」の貢献もあります。これで先生の業務はずいぶんと減りました。では「園支援システム+バスキャッチ」を主に管理する人は誰なのか。今は事務にお願いしていますが、管理する人は1人ではなく、バックアップが必要です。園長と副園長など、ある程度わかる人4~5名が操作できるようになると良いと思います。どの分野を誰ができるかをなるべく分散させて、管理を一元化する形にしています。
 また、メールは全職員が打てるようにしています。ただしメールを送る際は基本的に私を含めた上の者が確認をした上で送信しています。ポチッと押せば350名にメールが届きます。ただ、この文面で大丈夫かな? と常に不安です。そして私が倒れた場合に誰が押すのか? バックアップはどうすればよいのか? などの問題も出てきます。

■コロナ禍による緊急事態宣言発出

 そんなことをしているうちに、緊急事態宣言が出てしまいました。ここでやることは、また一気に変わります。まず、ビデオ会議(Google Meet)を活用しました。対面で会えないなら、ビデオ会議で情報共有して、在宅勤務でも画面越しで会えるようにしました。園内会議や研修、終礼にも活用しています。在宅の場合はサイボウズも一部アクセス可能にして情報を共有できるようにしました。

■ビデオ会議を活用

 実際に使ってみると、ビデオ会議っていろいろな可能性があることに気づきました。園内だけでなく、全国の皆さんとの研修もビデオ会議(Zoom)で参加できるようになりました。ビデオ会議での勉強法は、同時にホワイトボードシステムを使ったり、ポストイットみたいなアプリを入れて、メモを画面に貼り付けるかたちで実施しています。

■やればできるようになるICTスキル

 ICTスキルは、各園の先生たちも勉強すればできますが、やらないとなかなかできません。ビデオ会議を使って研修の場に参加して、実践で使ってみたり、自園にないアプリにふれることで勉強になりますし、だんだんと慣れてできるようになっていきます。ですから、やってみることが大切です。

【業務改善に向けた試行錯誤のまとめ】

■ICTの活用による業務効率化に向けた試行錯誤でわかったこと

①ICTのアプリ(有料・無料)や、連携できる企業の選定
 Googleなど無料で使えるものがある一方で、「園支援システム+バスキャッチ」のように有料のものもあります。システムによりますが、有料の場合、バックアップやサポートセンターの有無で選ぶこともあります。連携する企業はFace to Face、メールだけでなく直接コミュニケーションが取れるところが良いと思います。こういう風にしたら良い、とアドバイスをくれる企業を選ぶと良いでしょう。

②若手職員にICT化を託してみる
 園長や副園長で判断がつかないときは、任せてみることも大切です。

③理事長・園長は、ソフトとハード整備と柔軟な判断
 ゆるやかに使えるルール作りができるのは園長・副園長だけです。

④ICT化することでアナログ業務を断捨離
 残り続けるものをいかに捨てるか、統合するか、いかに業務を減らすか、が大切です。ICT化しても必ず業務が減るわけではありません。負担増もあり得るので、職員を巻き込んでどれを捨てるか、取捨選択しましょう。

⑤実施しながらICT化の理解を保護者に促す
 園だよりは家に貼りたいから紙で欲しい、といった要望は出てきますので、慣れていただきつつ、理解を深めてもらいましょう。

⑥職員や保護者へのICT化による利便性を感じられるよう徐々にチャレンジ
 実際には、コロナ禍で一気に進んだと感じています。みんな必要に迫られ、一気に理解が深まりました。従来より利便性が上回っていると更にわかってもらえます。

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