目次
質疑応答
Q:職員にICTの必要性(現状の問題意識)はありましたか?
A:コロナ前は職員の問題意識はそこまでなかったと思います。皆さんの園でもコロナの影響で、例えば自宅からアクセスできる必要があったり、業務効率化しないといけないという問題意識が職員の中に出てきたと思います。コロナによってICT化する必要性が一気に出たと思っています。
Q:業務の断捨離をすることは難しいように思います。過去の仕事を断捨離(業務の整理)するときに大切なことはありますか?
A:業務の断捨離や整理には、できるものとできないものがあると思います。業務の見直しをするときに、例えばクラスごとに伝えるにはどうやったらいいのか、これはICT化した方がいいんじゃないか、となると思います。
断捨離をするポイントは、これは本当に要るのか、なぜこの流れのままやっていたのか、を考えることです。この流れのままでは本当に必要な人に伝わっていないよね、というところを見直して変えていきます。
Q:プロジェクターの機種は何を使っていますか。
A:子どもたちが大きく投影するものには2つあって、1つは液晶テレビ、もう1つはプロジェクターです。液晶テレビの方が日中明るいところで見られるので、液晶テレビで投影する方がメインになっています。プロジェクターや液晶テレビのコントロールは、まだ先生が行うことが多いですね。
投影しながら、子どもたちが液晶テレビに投影したものを指して、ここにはこういったものがいるんだよ、っていう説明はやっぱり先生がしています。なぜこの写真を撮ってきたかの説明は、子どもたちがタブレットを見ながらやっています。
プロジェクターについては、天体ショーがあったときなどに、プラネタリウムを見せるなど、先生が意図して行うことが多いです。その際、子どもたちの声を聞きながら、興味・関心の広がりにあわせて、アプリを投影します。ちなみにプラネタリウムアプリはいくつもあります。無料のものでもいいので自分のスマホで見て、これが一番最適というものを選べばいいと思います。またYouTubeにもたくさんアップされていますので、こちらを利用する方法もあります。
Q:アプリの操作の際は保育計画などは作っていますか? ただ触るだけでも何となく「やった感」が出てしまうのではないかと心配しています。
A:そこまで細かくは作成していません。デジタル顕微鏡は日常を見れるような形でやっていいよと伝えているので、計画に盛り込んで行う形ではありません。先生の「やった感」ではなくて、子どもたちのやりたいに合わせて計画を立てていくような形でやっています。子どもの興味・関心がある方に向けてあげれば、先生の「やった感」はちょっと減ると思います。ただ、やり続けていくと子どもの方がやっていく感じになるので、最初は「やった感」があってもいいと思います。
Q:割と頻繁に授業の中でタブレットやカメラを使っているのか、週に1度、ICT授業の用に限定的に使用しているのか、どんな感じでしょうか。
A:あまり週に一度とかにこだわっていません。子どもたちが使いたいときにリクエストがあったら使えるようにするので、そこまで限定的ではありません。一昨年は先生が機器の管理をしていたので、限定的でしたが、今はできるだけ子どもたちが使えるような形で、子どものリクエストに応じて、ICTを使えるようにしています。
Q:教職員の方々へのセキュリティルール作りはどうされていますか?
A:教職員のセキュリティのルールでは、基本的に個人のスマホにデータを入れないでね、といっています。ただ、緊急事態宣言のときはiPhone等の機器が全然足りなかったので、個人のものを貸してもらったことがあります。基本的にはタブレットとアカウントが紐づいていて、このタブレットには紐づくアカウントしか入れない形にしています。また園のタブレットを家に持って帰ることはできません。ルールで決めているところもありますが、保育者自身の良心という部分もあります。
3.ディスカッション
亀山 秀郎(学校法人七松学園 認定こども園 七松幼稚園 理事長・園長)
藤田 俊(リンクエイジ株式会社 代表取締役)
西尾 真吾(VISH株式会社 バスキャッチ担当)
ゲスト:北村 佐智子(学校法人美乃里学園 自然幼稚園 副園長)
藤田:
業務改善、保育の実践の中でのICTについて、亀山先生からお話しいただきました。私たちリンクエイジやVISHさんはたくさんの園に伺う中で、いろいろな実践事例を拝見しております。
そんな中で、京都の自然幼稚園さんが今保育の中でICTの実践に一生懸命チャレンジされています。そこで自然幼稚園の北村先生に、実践されていることをお話しいただきたいと思います。
■自然幼稚園(京都府京都市) 北村佐智子副園長
北村:
亀山先生のお話をお聞きして、私たちの状況を改めて確認していたところです。私が今園の中でやっているICT利用は、「保育実践で」というところです。「子どもの経験を豊かに」というテーマで、環境の充実を目的にICTを活用してきました。
■生活の中のICT活用の場面とは
北村:
生活の中のICT活用にはどういう場面があるのかを確認するため、昨年1年間の活動を振り返ってみました。
今普通に私たちが使う道具を子どもたちの世界、子どもの興味・関心があるところに下ろしたらどうなのかを実践してきた感じです。子どもの興味関心をICTを利用しながら深めていく、情報を活用し、そして対話し、探求するために、何をしたいからICTを使うのかを分類してみました。それは、知る・調べる・伝える(共有する)・表現する(思い・考えを表す)、そして記録する、です。
■火おこしを調べて実践する
北村:
うちは名前の通り、自然幼稚園ですから、火おこしを実際に子どもたちがやります。その中でどうやったらもっと火がうまくおこるだろうかを、スマホを使って先生が調べて、もっとこうすればいいんだよと教えてくれます。そういう体験から、自分たちでも調べられるよね、というところに今、発展しているところです。
■ダンゴムシを調べる
北村:
ダンゴムシに興味を持ったら、たくさん集めてきたダンゴムシの中から一つを取って、デジタル顕微鏡で拡大して見てみます。そこで子どもたちはいろんなことをもっと調べたいと思って、タブレットで調べてみようとします。でも、タブレットやパソコンはJIS規格の文字を打たなければならないので、やっぱりちょっと難しい。そこからスマホに移動して、スマホを使って、50音キーボードから文字を探して、打って調べるということが活動としてありました。
その後、実践、そして発展として、本や雑誌を使って調べます。ここにもこんなのが載っていたという子どもの興味・関心から、ここでもまた振り返り、そしてダンゴムシメールにつながっていく、そんなことも遊びの発展としてありました。
ですのでデジタルを使うことがそもそも目的ではないので、子どもがダンゴムシを通していろんなことに気づいていくというのが、今実践した結果として感じたところです。
■撮りたい、そして見せたい
北村:
興味関心から発展するものですから、餅つきのときには、面白そう!撮りたい!と自由に使っていいスマホを借りにきて撮っていきます。その後、友達にそれを見せたり、伝えるようになってきました。
■映画を撮る
北村:
いま子どもたちの活動で面白くなっているのは、この動画を撮るというところから、映画を撮るというところに発展してきました。
映画を撮るにあたって、ちょっと言葉で伝えるのがとても難しい子もいるんですが、そういう子も映画を撮りたいといって、自分でブロックを持ってきて、ストーリーを作って、それを撮影します。撮影も今まで経験を積み重ねてきた男の子が、僕が撮ってあげると言って、そこで子ども同士の映画を撮るということにつながっています。
ですので子どもたちの映画を撮るというのも、一つのストーリーではなくて、いろんな様々な経験がつながって、結果として映画を撮るということに発展してきました。
■年中から経験させたい
北村:
子どもたちの活動は、途切れ途切れではありますが、ICTを使ってとっても面白い活動に広がってきています。昨年は年長を中心にやったんですが、今年はもう年中からどんどん経験してもらおうと思います。
活動の一つとして情報を活用し、詳しく探求するところで、保育者が何が育っているかを記録の中から読み取っていく、そういうツールとしても使えると思っています。ICTを通じて、今まで私たちが思っていなかった子どもの世界が見えてきたように思いました
藤田:
ありがとうございます。先ほどの亀山先生のお話にもありましたが、ICTを保育の中で実践で取り入れるとなれば、あくまでも道具であると、北村先生のお話を聞いていて思いました。道具であるということは、イコール子どもたちの興味関心がなければなりません。これはリアルもWebも道具である以上は同じなのかなと感じた次第です。
西尾:
亀山先生、「How to」になってしまうのですが、デジカメは何台あるのですか。
亀山:
各保育室に1台ずつあります。担任の先生がデジカメとiPadを首からかけての二刀流になっています。撮りやすいのはiPadですが、フラッシュとかはできません。デジカメだと先生的な目線で子どもがカメラとして遊びますが、すぐには見られないんです。iPadだと撮ってすぐ見直して動画の確認をしたり、他の機器に転送したりと応用が利きやすいので、だいぶiPadがメインになっていますね。
藤田:
デジカメかiPadかなんですが、実際の保育のシーンを先生が撮影される場合、興味関心だったり、意欲・探求といったあたりを切り取ることになると思います。すると我々写真屋のように綺麗に撮るというよりも、どのシーンを撮るかが大事になりますし、そこに育ちが表現されると思います。その後の共有や先生同士の話し合い、ドキュメンテーションへの活用を考えると、共有しやすいiPadの方が使いやすいのかもしれないですね。
西尾:
北村先生のところはタブレットですか、デジカメですか。
北村:
両方使っていて、デジカメは4台あるんですが人気がなくなっています。やっぱりタブレットは面白いようですね。子どもなりに親のタブレットやスマホを使い慣れているので、機能が限定されているデジカメは何か物足りないという感覚を持っている感じです。
撮った後で当園ではみんなで振り返りをするんですが、デジカメはSDカードを抜いて、どこぞに挿してというのが面倒くさいので、後でになってしまいます。タブレットだったらそのまま接続してすぐ見れるというのが良いみたいです。
タブレットじゃなくて廉価版のスマホでも、子どもたちの使い勝手としては悪くないと思っています。1クラスに1台ぐらい買い足して、Wi-Fiネットワークにつながらない環境で使うようにしようと思っています。
亀山:
ICTが苦手な方もやっぱりいらっしゃると思います。僕の考え方では理事長・園長が苦手だと思うなら、もう完全に任せるパターンもあるのかなと。ただ、どれくらいのレベルで使わせようか、という範囲が決めにくくなると思います。やっぱり苦手な理事長・園長がどれくらいならできそうかを、何回か触れる機会を重ねて広げていけば良いと思います。自分ができるレベルをどう伝えていくか、あとは理事長・園長が周りの方々がこれくらいならいけるっていうレベルからやっていくのが良いかなと思います。
西尾:
前回どこかでもお話させてもらいましたが、保育のノウハウ、教育のノウハウは年長者が持っていると思います。幼稚園さん保育園さんは一般企業からすると、喉から手がでるほど欲しい若い女性が働いています。最新トレンドに一番近い、敏感な人たちがいるのが先生たちの職場だと思います。ICTを考えるとき、今はすべてが上下関係ではなくて、逆に新しいことをやるときには、若い財産をもっともっと活かすべきです。弊社でもインスタとかを始めようというとき、入社間もない女性社員に聞きながら、手助けしてもらいながらやっています。ノウハウは当然年長者が持っていますが、やっぱりツールの使い方って若い人の方がうまいんです。あくまでもツールは目的ではなくて手段です。現場の先生たちがついてこないというより、逆に現場の先生たちの自主性、主体性をもっと持たせてあげて、逆にお互いに教え合いながらやれるのが幼稚園と保育園だと思います。
藤田:
そうですね。上の人が何でも知っておかなきゃという時代でもないですし、やっぱり餅は餅屋で活かし合ったり、得意な知識・経験で補い合う。会社も園も人の集まりですから、それで円グラフの足りないところを埋めていくのがこれからの組織のあり方だと思います。若い先生、新任の先生の得意なところを活かしてあげる、プラスの面で活かしていくマネジメントが必要なのかと思います。
亀山:
最後に肖像権に関しての質問にお答えすると、うちも入園のとき、園ではこういうことをやっていきますという誓約書への同意をお願いしています。でも同意されない方はいらっしゃいます。やはり保護者の同意を得ながら進めないと、うまく進まないと思います。園だけがこういうことをやっています、ICT化しています、って言ってしまうと駄目なのです。保護者にも納得感とか、これだけ便利になったとか、子どもの様子が伝わった実感があれば、賛同していただけると思います。粘り強く、まずはこれだったら良いですか、みたいな会話を繰り返して行くことが大切です。うちでは副園長を筆頭に職員全体でICT化に取り組んでいます。まだまだ試行錯誤していますし、やっぱり壁が立ちはだかりますけれど、粘り強く取り組みを続けていきます。